アルコール依存症は静かに進行する
アルコール依存症の患者さんは、
お酒を飲み始めた当初からアルコールに依存していたわけではありません。
ほとんどの人たちは、
アルコールを適度に楽しむことができていた期間を知っているのです。
しかし、様々なきっかけで酒量が増え
⇒アルコールに対する耐性ができ始め
⇒アルコールによるトラブルが起きはじめ
⇒徐々にその回数も深刻さも増していくのです。
最初はビール一杯で赤くなっていた人でも、
酒量が増えれば何杯も飲まずにはいられなくなります。
これが、いわゆる「依存」と呼ばれる状態なんですね…。
「アルコール依存症で死んだ」という話はあまり耳にする機会がないので、
「アルコール依存症になっても死ぬことはないだろう」と、
安易に考えている方が多いかもしれませんが、とんでもない!!
肝硬変や肝臓ガンなど肝機能の障害で死亡するケースの多くは、
その背後にアルコール依存症が潜んでいることが多いのです。
アルコール依存症はなぜ肝臓を蝕むの?
アルコール依存症は、一種の薬物依存です。
薬を飲み続けていると、だんだんその薬が効かなくなってくるように、
アルコールも飲み続けているうちに量が増えていきます。
しかし、飲んだ分だけ肝臓には余分に負担がかかることに!
アルコールは肝臓で分解されますが、
肝臓の分解能力には限界があるのです。
日本酒なら1合半、ビールなら大瓶で1本半のアルコールを分解するには、
一日7時間の睡眠が必要ですが、(※もちろん個人差はありあす)
たいていのアルコール依存症者は、このラインを楽々と突破してしまいます。
肝臓の限界は日本酒なら5合、ビールなら大瓶5本、
ウィスキーなら瓶半分ですから、
このラインを超えると体の中に24時間アルコールが残ってしまうことに…。
文字通り、酒漬けの状態で毎日を過ごすことになってしまうのです。
この状態で、健康に害がないハズがありません。
ご存知の通り、肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれる臓器。
痛みを感じることなく、静かに、
けれども確実に死に向かって蝕まれていくのです。
重い負担に耐えられなくなった肝臓には徐々に脂肪がたまり、
やがて繊維で覆われて、いわゆる“肝硬変”の状態に。
こうなると当然のことながら肝臓の機能も著しく低下しますので、
アルコールを分解する力もなくなっていきます。
すると、今度は前ほどの多量のお酒を飲まなくても
簡単に泥酔するようになってしまうのです。
アルコール依存症者の中には、
「最近はそんなに飲んでいない」と言い張る方も多いですが、
それは大きな誤解。
実際は、かなり危ない状況です。
アルコール依存症がもたらす“社会的な死”
24時間酒びたりの状態では、当然、他の臓器にも異変が現れます。
肝臓、すい臓、心臓病、消化器。そして、脳です。
アルコールは一種の麻酔薬ですから、
それが切れれば禁断症状(離脱症状)が出るようになります。
具体的には、手足の震えや異常な発汗、幻聴、幻覚。
常に不安感や焦燥感に襲われ、まともな社会生活は送れなくなるでしょう。
結果的に仕事を失ったり、家庭内で暴力をふるうようになったり…。
経済的にも困窮し、家族にも見捨てられ、
社会的な「死」を迎えるケースも少なくありません。
家族とも社会ともつながりを断たれた「死」の状態で、
患者はますます酒におぼれていくのです。
最後は肉体の死が待っている
社会的な死を迎えて孤立してしまったアルコール依存症者は、
その寂しさや空虚感を埋めるためにさらに酒を飲み続けます。
そして最後にあるのは、「肉体の死」。
自身の人生に絶望して自殺する人もいれば、
酒に酔った際の不慮の事故で死亡する人もます。
また、アルコール依存症に起因する肝臓やすい臓、
心不全などの内臓疾患で死亡したり、原因不明の孤独死をする人もいます。
実際のところ、どれだけの人がアルコール依存症で死亡しているのか、
確かな数字を把握することすら難しい状況なのです。